Multi-Axis Differential Optical Absorption Spectroscopy(多軸差分吸収分光法)の略。原理は差分吸収分光法(Differential Optical Absorption Spectroscopy; DOAS)に基づきます。DOAS法は高波長分解能で測定したハイパースペクトル(素子チャンネル数1024以上)に含まれる観測対象物(微量気体)の特徴的な吸収スペクトル構造を利用し,Lambert-Beerの法則に基づいて微量気体の濃度を導出する方法です。測定されるハイパースペクトルには微量気体だけでなくレイリー散乱やミー散乱等による影響も含まれますが,そういった微量気体の吸収構造よりも低周波(波長方向に緩やかな構造)の影響は多項式で近似して除去します。これにより,0.1%以下のわずかな吸収をも同定し微量気体の濃度を高精度で導出できる点が特徴です。DOAS法は,アクティブDOAS法とパッシブDOAS法に大別されます。パッシブDOAS法であり,複数の低仰角測定機能を加えた方法がMAX-DOAS法です。比較的シンプルな装置ながら,複数の仰角で測定された天空光ハイパースペクトルを、フラウンホーファー線を利用した高精度な波長キャリブレーション、大気の球面効果などを考慮した放射伝達モデル、非線形の逆問題をベイズ定理に基づいてLevenberg-Marquardt法(LM法)で解くなどして精密に解析し、下部対流圏のエアロゾルや微量気体の高度分布情報を同時にリトリーバルしています。入江研究室で使用している観測システムのハードウェア部は主に高分解能紫外可視分光器(Ocean Insight社製Maya2000Pro; 素子チャンネル数2048、波長分解能0.2-0.4 nm)・受光テレスコープ部(株式会社プリード社製)・光ファイバーで構成されます。この装置で測定された天空光ハイパースペクトルは,我々が独自に開発したJM2 (Japanese MAX-DOAS profile retrieval algorithm, version 2) アルゴリズム(Irie et al., 2011, 2015, 2019, 2021)を用いて解析され,8成分(2波長のエアロゾル消散係数,二酸化窒素NO2, ホルムアルデヒドHCHO, グリオキサールCHOCHO, 二酸化硫黄SO2,水蒸気H2O, オゾンO3濃度)の高度分布およびその対流圏カラムの同時リトリーバルを実現しています。